《猫》は、二十一世紀に入ってから主に北欧あたりで確認された、古い民族である、と言われている。

 言われている、というのは、古くから民族として存在する証明となる書物や文献が発見されていないからだが、実際のところ、なんと魔女の時代以前から、悪魔や魔物などの悪しき存在と戦う職業のもの、つまり、《聖職者》のパートナーとして必要不可欠な存在であった。


《猫》はその名称通り、人間とは比較にならないほどの跳躍力などの優れた身体能力を持つほか、一般的に人間には見る事のできない存在を、その視覚に捕らえることが可能なためである。

その存在が、二十一世紀に入ってからやっと認められたというのは、やはり《竜》の墜落によって、あらゆる《聖職者》が活動を始めたことと関わりがあるのだろう。それまでは、あくまで《竜》や《悪魔》などと同じ、想像上の、架空の種族として扱われてきたのだ。


実際、ヒトよりも《竜》などの特殊な種族に近いのだといわれている。


とはいえ、もともと数が少ないうえに、短命な種族である。


また、最近の研究によると、《猫》は人間との間に子供を成すことが可能なため、純血のものはほとんど残っていないといわれている。

また、純血種と、ヒトとの混血児との身体能力の差は比較にならないとも言われる。

身体的特徴は、上げ連ねれば、獣の猫を起源とすると言われるほどそれに良く似ていて、ヒトよりもやや小柄な体、男女ともに華奢で、北欧風ともアジア風ともとれないような、その昔は王族の愛玩とされていたという伝説に頷けるほどの、整った顔立ちをしている。


瞳の色と髪の色にはバリエーションがあるが、瞳の中心の虹彩は、まさに猫のごとく縦長で、瞳は共通して金色を帯び、暗闇では獣のごとく光る。

また、数少ない純血種には、ヒトの尾?骨に当たる部分に軟骨のようなものでできた部位があり、そこに《尻尾》とよばれる金属製のコードを差し込む。


その先端に家紋代わりのアクセサリーをつけることで、血統証代わりとしているという。


純血種であれば、ヒトが耳にピアスを開ける程度の処置で、数週間で安定し、痛みも感じないが、混血にはその部位がないため、無理に《尻尾》をつけようそしても、傷となって腐り落ちてしまうのだ。


《猫》に対しての科学的検証は、全くといって良いほど進んでいなかった。


もちろん、発見当初は新しい種の人類として、世界中で科学者たちの目をひいたのだが、幸か不幸か、その容貌がヒトに良く似ていたため、人体実験だとして、研究対象としての反対にあったのが、その原因である。


それ以来、表立っての《猫》に対する研究はされていない。


影ではこっそりと研究が進められている可能性もあるにはあるが、いまの日本では、突然さらわれて研究対象にされるなどということはないに等しかった。

ただ《猫》は、その存在が確認されてから数年と、あまり時が経っていないため、そういった状況に不慣れな日本の場合は、特に法律なども追いつかない状況であり、ヒトと同じように学校に行ったり、仕事に就いたりということに対してしっかりと定められていない。つまりは野放し状態なのである。



いまのところ、混血を含めても大した人数ではないため、社会においてそれほどの混乱は見られてはいない。それに加え、《猫》はその習性からか、好んで《聖職者》と行動を共にすることが多いので、表立って社会に姿をさらすことが滅多にないのである。

 

















「そう。黒猫の純血種だよ」

  あまり興味なさそうに言いながら、座っていた椅子から少女が立ち上がる。

  案内役の少女、ショウが、それに倣って移動した。幾つもの本棚が並ぶ、書庫の奥へと先導して入っていく。




リン、と。



聞き覚えのある鈴の音がして、その音の方向に目を向けると、黒猫だという少女の、漆黒の金属コードでできた《尻尾》の先端に、ちょうど猫が首輪につけるような丸い小さな鈴がついていた。


「く、黒猫って…純血種のなかでもさらに珍しいって、聞いたことあるけど……」



 鈴を見たまま、ミカは呟いた。


「そう、その黒猫。いま日本にいるのは、僕一人かもしれないけどね。黒猫は昔から、他の猫とは比べ物にならないほどの《猫》としての能力を発揮してきたって言われてるみたい…まぁ、昔の黒猫がなんて呼ばれてようと、僕には関係ないけど。自分がどうするか。そう思うでしょ?」



ブツブツと、まるで独り言のように言いながら、少女は書庫のさらに奥に入っていく。





「依頼人、こちらに来て。話は奥で聞くから」





 

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