話し声が、聞こえる。

佐々木美花は、新校舎の三階の西側、一番端にある、第二音楽室の前で足を止めた。

廊下の突き当たり、音楽準備室をはさんで、向かって左側が、主に音楽の授業で使用される第一音楽室。

そして右側が、吹奏楽部の部室であり、部活動の時間外は、普段、鍵のかかっている第二音楽室である。

ミカは時計を見る。

午後四時半を回ったところだ。

通常であれば、放課後であるこの時間、部活動が行われている筈の教室から声がしても、何の不思議もないのだが、吹奏楽部は、昨日から明後日の日曜日まで、コンクールに参加するために不在のはずなのだ。

ミカは、吹奏楽部の生徒ではない。

というより、なんの部活にも入っていない。俗に言う「帰宅部」というやつだ。

借りっぱなしだった本を、四階にある図書室に返却に向かう途中だった。



第二音楽室の扉はほんの僅かに開いている。

そうでなければ、防音のされたこの教室のこと、中の声が外に漏れることなどないのだが。

ミカは、ゆっくりと扉に歩み寄る。

「………うん、そうだね。こっちは何も。気配の残りかすみたいなものが、少し感じとれるくらいだよ」

扉からは離れた壁側にあたる、窓際かベランダで話しているのだろう、特徴的な高音の、可愛らしい少女の声だ。

電話でもしているのだろうか、高等部のこの教室に、いや、校舎に不似合いなくらい幼い、その少女の声以外、他者の声は聞こえない。

ミカは、そっと扉を開ける。

もともと僅かに開いていた扉は、僅かな音もなく、ゆっくりと開いた。

扉を開けてすぐの、右手側は壁で、左側には壁と一体化した柱が数メートル伸びているため、窓際からこちらが見えない代わりに、声の主の姿も、ミカからは見ることができない。

しかし、少女の声がさらに明瞭になる。

聞き取れる声の可愛らしさとは裏腹に、尊大というか、まるで少年のような言葉遣いや話し方が気にかかる。

「わかった。もうひとつ寄り道をしてから、一度そっちに戻るよ。新しく入った情報を整理しておいて。…誰かに気づかれたみたいだし」

その少女の言葉に、ミカは一瞬ギクリとする。

音はまったく立てていないはずなのに、互いに姿も見えていないはずなのに、扉からは離れた窓際にいるはずの少女は、こちらに気づいたのだろうか。

ミカは思い切って、窓の見える位置まで飛び出す。

リン。

鈴の音を、聞いた気がした。

開け放たれた窓。

そこにはすでに、声の主の姿はなかった。

まさか、飛び降りたの!?

驚いて、思わず窓に駆け寄る。

少しだけ突き出たベランダの下には、レンガで囲った花壇があって、季節ごとに花が植えられるが、十二月に入ったいまは、ポインセチアが綺麗に植えられている。

そこには、人影はおろか、足跡すらも残されていない。

この場所は校舎の敷地内でももっとも西側で、その先に建物はなく、花壇の先は、ほんの数メートルで壁にぶち当たる。

何よりここは三階だ。

ミカは、狐につままれたような気分で、呆然と立ち尽くした。

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